研究内容
遺伝病の病因・病態解明から新しい生命現象の発見へ
当研究分野では、ヒト遺伝病を研究の出発点として、各疾患を引き起こす遺伝子変異(病因)の探索と発症の仕組み(病態)の解明を通じて、新たな生命原理の発見を目指しています。
染色体監視システム
遺伝情報を担う染色体は、ヒト細胞内ではその数が46本に正確に保たれています。染色体の数が不安定になると最終的に「がん化」に至ると考えられています。私たちは、生まれつき染色体数が不安定性なヒト遺伝病「PCS/MVA症候群」について研究しています。PCS/MVA症候群の患児は、小児がんが多発する難病です。これまでに次世代シークエンサ技術とゲノム編集技術を駆使して、染色体分配を司るBUBR1遺伝子の変異を同定しました。
最近では、PCS/MVA症候群に加えて、ダウン症候群などの染色体異数性症候群を標的とした染色体治療法の開発に向けた基礎研究を推進しています。
繊毛病研究
一次繊毛は、ヒト細胞表面に発達する1本の毛のようなアンテナ構造です。一次繊毛には細胞の増殖や運命決定(分化)に関わる様々なシグナル伝達分子が集積していて、個体の発生や幹細胞の維持にとっても極めて重要です。私たちは、PCS/MVA症候群では繊毛形成が低下しており、本疾患が多発性腎嚢胞や小脳発生異常に特徴づけられる繊毛病の一つであることを見出しました。
最近では、病因・病態が不明なオーファン繊毛病に着目して、新たな繊毛機能ロジックを探索しています。
ヒト疾患研究(遺伝性小頭症研究)
原爆小頭症は胎児期に放射線被ばくしたことによって発症しますが、小頭を来す分子・細胞レベルでのメカニズムについてはよくわかっていません。私たちは、生まれた時からの小頭を特徴とするヒト遺伝病「遺伝性小頭症」をモデルに、脳サイズの決定メカニズムを明らかにしたいと考えています。この遺伝病の一部に、DNA修復タンパク質、染色体分配制御因子や中心体タンパク質の変異が報告されています。私たちはナイミーヘン症候群(NBS)やNBS様重度小頭症、LIG4症候群、PCNT-セッケル症候群などの遺伝性小頭症の遺伝子診断を行うとともに、病因不明の小頭症の原因遺伝子を、次世代シーケンサーを用いて探索しています。また、ゲノム編集を用いた小頭症変異導入マウスを作製して、病態解明研究にも取り組んでいます。
放射線感受性の個人差研究
お酒に強い人と弱い人がいるように、放射線に対して強い人、弱い人がいることがこれまでの研究から示されてきました。とくに放射線によって生じるDNA二重鎖切断損傷を修復する能力には個人差があり、これが放射線による発がんリスクの個人差に反映されると考えられてきました。しかし、放射線感受性は、飲酒や喫煙などの生活習慣に加えて、ヒト集団の遺伝的多様性によっても大きく影響を受けることが知られています。
私たちは、均一な遺伝的背景をもつヒト培養細胞でのゲノム編集を行い、放射線感受性の個人差を決定する遺伝子変化を高感度に同定する解析フローを構築してきました。現在、これらのツールを利用して放射線感受性の個人差に関わる遺伝医学研究を展開しています。